今年のアワードを開催するにあたって事務局と審査員の顔合わせキックオフ座談会を行いました。審査員は昨年に引き続き山﨑 健太郎氏、座間 望氏と、今回から新しく森本 千絵氏、安藤 北斗氏をお迎えしました。また審査委員長につきましては今年より当社社長に就任しました近藤 康正が審査委員長を務めます。
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メンバーも変わり今年アワードを開催するにあたって過去のアワードの振り返りや今回のアワードへの期待、「壁面のデザイン」についてなどお話を伺いました。皆さまの作品制作のヒントになる内容でもあると思いますので、ぜひご覧ください。
【Q】3回目の審査員就任となる山﨑さん、座間さん、昨年のアワードはいかがでしたか
山﨑:去年、募集対象が「壁紙」から「壁面のデザイン」に変わり、やれることが広がって、それはすごく良いことだと思いました。本質的には審査会の中で見る方々が「あ、これ面白いな」と思えることがやっぱり何よりですから、そうなっていくような設定が必要ですよね。
「壁紙」から「壁面」になって僕は変わったと感じたんですけど。じゃあ今回、また前回からどれくらい幅が広がるのか気になってはいますね。
デザインアワード2023の審査の様子
デザインアワード2023の審査の様子
座間:今ちょうど山﨑さんの話聞いてて気づいたんですけど、普段私がインテリアで壁紙を選ぶ時、そこに壁が必要だから壁に貼るひとつの要素として壁紙をチョイスする。仕上げるための壁紙って質感だったり色味で選んでいたんです。
それがこの審査員で呼ばれて、急にグラフィックの世界になったんです。そのデザイン、壁紙のデザインっていう審査が私にできるかなと思ってすごく不安でした。あんまりそういうグラフィックの観点から空間をデザインした経験がなかったから。
でも2年やらせていただいて、どちらかというと、壁があるから貼るものじゃなくて、そのデザインされた壁があるから空間が広がるとか、イメージが広がるような作品がたくさんありましたね。結構主張するものや、壁として主張するような作品がポツポツとこう出始めているという印象があって。
元々グラフィックの方が応募してた割合が多いと思うんですけど、徐々に空間まで広がってきているかなと昨年くらいから思いました。空間デザインの方や建築の方にも、以前よりは、募集の間口が広がってるのかなって感じています。
それと一昨年はコロナを経て、結構大人しい作品が多かったんですよね。繊細なものや自然感を感じるものとか。でも去年から、登竜門的なアワードにしたいという話で募集対象も一新して。結構面白い、機能的な提案も色々ありましたもんね。カーテンとか壁につける棚とかグラフィックを超えた提案がいっぱいあったので。今年もそこからもっと広がっていけるのかなと思って期待しています。
「壁紙」から「壁面」に変えたことで、一定の効果があったのではないでしょうか。
一同:ありますよね。
デザインアワード2023の審査の様子
【Q】今年度より審査員を務めていただく森本さんと安藤さんはいかがでしょうか
森本:私は今年から、初めてで。お話伺ってて、「壁紙」と「壁面」は、考えがまるで違う。
私の場合は、告知からの参加なので(笑)。今までテーマが壁「紙」だから、過去の制作物や募集を見た時に、やっぱりグラフィックのジャンルを彷彿させると思いました。そして今回「壁ってなんだろう」という疑問にハマってしまったわけですよ。安部公房じゃないけど、もうこれ哲学的な話になってきちゃって(一同笑)。
「壁ってなんだろう」をポスターにするってなったときに、例えば戦争とか色々あるこの世界のどこにどんな壁があったら幸せになれるのか…とかいろんなこと考え始めちゃって、そこで答えを出そうとしたら、あれ、答えを出しちゃうとアワードの募集のポスターにならないなと(笑)。
「壁ってなんだろう」ってなって。で、じゃあそこに壁がある必要性とはと考え始めたんですよ。
そこにいるのが誰なのか…大勢がいる、大切な人といる、ひとりとか、子どもとか。国とか状況によってその人を包むものなのか、分け隔てるものなのか、壁についての考え方が変わるじゃないですか。誰がとか、なんの命がとか、なんらかの状況があって、そこに壁がある。なので、いきなり「こんな壁かっこいいよね」という話じゃなくて。私の場合は「どういう必要があって」だから「こういう壁が必要で」その先にじゃあ「だったらこういう質感とかだ」って答えが出るから。
そこからちゃんと、楽しむ。「Joy of Design」というテーマ設定を考えることが、世の中へのメッセージにもなって、普通の社会課題とか仕事ではなかなかすぐにできなくても、そういう気持ちで仕事していきたいんだって、そう自分を表現する場にこのアワードがなってほしい。そういう気持ちで「ああ参加したい」って思えるポスターが作りたいってことまでは分かったんですけど。
それがどういうビジュアルか…思いつかないです(笑)。はい、難しい。
安藤:僕もすごく難しいなとずっと思いながら…。でも僕が作る立場ではないんですけど。
森本:一緒に考えてください(一同笑)。持ち込もうと思って。今日は。
安藤:審査の基準がビジュアルの好みの問題になっちゃう気がして。好みで選ぶのって果たしてデザインとして正しいのかどうかと思ってるんですよ。
デザインっていうともちろん、機能性があって、あるいは動機があって、アウトプットを作っていく。それは何かしら課題を解決するための、課題を提起するためにデザインていうのがある種機能している側面があると思うんですけど、いまこの「Joy of Design」というテーマで、どういうものが出てくるのか、いままだ分からないんです。好みで単純に票を入れていくっていうのは、果たして健全なのかどうかちょっとよく分からなくなっちゃって。例えば「ビジュアルインパクト何点」とか、「サステナビリティ何点」とか、そういう基準であれば比較的やりやすくはなるんですけど、単純に個々の好みになってしまうと怖いなって。要は目立ったもん勝ちみたいな感じになっちゃって。それはデザインとしてあるべき姿じゃないんじゃないかっていうかって気はしています。
森本:そうなんですよ。例えば病室のベッドにいる病人とかと、新しい生活に踏み出す人とではもう壁っていう考え方がまるで違うから、どこを基準にみなさんも作品を出してきて、どこを基準に審査していくのかが見えないというか広すぎて、なので、どう募集していいか分からない。
【Q】ありがとうございます。それではこれまでのご意見を踏まえて今年のアワードに期待することは何でしょうか
山﨑:今のお話を聞くと、森本さんが言われた投げ掛けって、いいんですよ。ファイトが湧くから。ただ多くの人たちは過去のものを見るからどうしてもそういう作品は出てきてしまうだろうけどグラフィックの戦いになっちゃうと、僕なんかはどう審査するか難しいです。たぶん座間さんも難しい。昨年審査員としてご一緒した植原さんがいた時はビジュアル、グラフィックとして見られるっていうことがあったから、それはそれでひとつの審査基準なんだろうと。審査員の価値観によって幅が出ることはとても良いことだと思ってるので。その上で去年は、それを超えた広がりをちょっと感じました。例えば環境のことで、壁面を考えられるものかなと思っていたけど、結構そういうことにチャレンジする人たちいましたよね。要するにテーマの解釈が広いから。その解釈の広がりをメッセージとして受け取った方がいいと思うし、そういったものが集まってくるとアワードの価値にはなるんだと思います。
アイデアっていうのは、幅があんまり広すぎてどうにもならないからこれは止めようかってなるくらい1回広げちゃった方がいいんじゃないかって思う。そうじゃないと後で広げる方が難しいと思うんですよね。「ここまでやっていいんだよ」っていう風に投げかけて。それでこちらも広がったものに対して、考えてるとか悩んでるとかそういう思想があるとかね。
さっき森本さんがおっしゃった、「戦争がある中での壁とは?」みたいなことを考えるっていうのがあってもいいと思うしこっちが「そういうこと考えるんだ、参加する人たちは」と受け取って、それをどういう風に評価できるかっていうのはこちらも試されてる気分になる。そういう自由な投げ掛け方の方がいいんじゃないかと思うんです。必ず来年にその反省がおそらく出てくるはずだし、それでいい。その中で最後に残るものはもうちょっと絞られて、ちゃんと公正な評価を感じるものになってくるんだと思うんですけど。たくさん反省点が生まれるくらいの投げ掛け方をしていってもいいんじゃないかという気にはなりました。
座談会の後、完成したポスタービジュアル
森本:そう思うと、まわりまわって…散々考えて…言葉が主体のポスターになる可能性高いなと…。問いというか…。ってなってきました、私の中で…。
座談会の後、完成したポスタービジュアル
安藤:それくらい自由な発想があると…例えば、戦争における壁であったりとか、鳥居だって物理的な壁ではないかもしれないですけど、ある種壁ですよね…
森本:鳥居…そうですね神との隔てですよね。
安藤:鳥居みたいな概念を表現した作品が、僕らの目の前にボールとしてくると、おそらく我々はものすごく困惑するし、逆にすごくいい刺激にもなるし、そこから議論が生まれる。それくらい広い意味で「壁面」をとらえてもいいかもしれないです。
山﨑:そこ(前のモニターを指して)に書かれている、サンゲツグループがデザインを大切に社会に向き合いながら社会貢献するという考え。当然これが結果的に結びつくことが必要なので、そのためには、もうちょっと幅の広いものを審査会の中で議論できるとか、それを拾っていくようなことができた方が僕はいいかなと思って。
去年すごく記憶に残ったのですが、大賞を取られた方はやっぱりすごく発想が良かったと思う。かなりプラクティカルなものだったけれども。あと、発想という観点では海洋プラスチックの作品もね。見方は色々あると思うんですけど、出来上がったものの良し悪しはともかく、彼がそこまで視野を広げてチャレンジしているってことを、ちゃんと受け止めた方がいいと思うんですよね。ただやっぱり評価として、最終的なデザインの良し悪しは外せない。アイデアや思想だけで評価できるものではないということを伝えたいと思う。
座間:さっき安藤さんが言ったように、作品の幅がカテゴライズできないんですよ。サステナビリティだったり、グラフィック的にかっこいい、アイデアはいいけど完成度が低いとか、カテゴリーできない状態だったんで、どちらかというと1作品ずつ向き合っていくような感じでした。共感するとか、感動したとか、自分が受け止めた小さなことを審査員の中のみんなで話し合って…ていうのが楽しいですし良いですよね。
安藤:こういう話ってWEBに載せてもいいんじゃないですかね。結構面白い話をしてると今思ってて。壁面っていう概念をただその「壁紙」みたいなところで切るんじゃなくて、どうしても先入観とか多かれ少なかれあると思うんですけど、ただこの「壁面」っていうのをもうちょっと広く捉えてもいいんだよっていうお話をきちんと伝えてあげるっていうのもひとつの手段ではなかろうか、という気はしています。そうすると鳥居が出ても…鳥居はもう話に出しちゃったからあれなんですけれど、鳥居「的」なものまでいいってことは大事なことかなと。
ー皆さま貴重なご意見ありがとうございました。
今回の座談会を通して、サンゲツとしても改めて「壁面」について考える良いきっかけになりました。応募を検討している皆さまもこのアワードをきっかけに「壁面」について考え、作品づくりを楽しみながら応募していただけますと私たちも嬉しいです!皆さまのご応募お待ちしております。